味覚性多汗症は、甘いもの、辛いもの、酸っぱいものや刺激物を口にするとその時に刺激される味覚神経によって、顔から通常では考えられないほどの汗をかく症状のことを指します。
その悩みのために食欲の減退や精神的なストレスが二次的な健康被害をもたらす可能性も否定できません。
Frey (フライ)症候群とも呼ばれたりしますが、こちらは同じように口の中の刺激で汗が大量に出るのですが、発汗部は耳の下あたりに限られ、汗だけでなく皮膚が赤くなったり、痛みが出ることもあり、厳密には味覚性多汗症の一種となります。
健常人であっても、辛いものなどを食べると汗をかきやすくなるもので、味覚神経が刺激されることで起こる生理現象なのですが、なぜ一部の人では過敏になってしまうのでしょうか?
味覚性多汗症については大きく3つのレベルに分けられます。
- 辛味や酸味など刺激性の高いもので大量の汗が出る
- 刺激性のない甘いものでも汗が出る
- 何を食べても汗がでる
3番の「何を食べても汗がでる」というレベルになると、かなりの重症です。
ここでは、味覚性多汗症の主な原因と治療法(予防法)についてご紹介します。
目次
味覚性多汗症の特徴
味覚性多汗症の特徴は発汗部位にあります。
顔を中心に、鼻、額、頭、耳の下などに限定した発汗であり、手足や脇、背中などの汗は味覚性多汗症には該当しない。
また、皮膚が赤くなる、唾液がたくさん出る、涙が出る、鼻水が出るということも伴うことが多い。
味覚性多汗症の原因として最も多いのは耳下腺手術による神経損傷
今まで特に食べ物による汗で悩んだことがなかったけれど、突然に症状が出るようになったという人の多くは耳下腺手術による損傷が原因であることが多い。
耳鼻咽喉科で行う耳下腺腫瘍(良性腫瘍)を摘出する手術のことであり、耳下腺にできた腫瘍を摘出する際に神経が損傷を受けて汗腺に影響をもたらすというのが通説です。
何故、耳下腺手術で神経を損傷させてしまうことがあるのかというと、耳下腺腫瘍が顔面神経のすぐそばにあったり中を通ったりすることもあるので、全てを綺麗に取り除くことが技術的に難しくなるためです。
誤って神経を損傷させると顔の筋肉が上手く動かないということにもなりますので、手術を執刀する医師は神経の保護にも腫瘍摘出と同じくらい注意を払っています。
それでも、医療事故は起こることがあります。
よく見られる特徴としては、顔でも片側のみ汗が吹き出るということ。
要するに、神経の損傷を受けた側のみ過敏に反応して汗を出しているということです。
もし、あなたが耳下腺手術を受けた後から発汗がひどくなったというのであれば、この可能性を疑ってしかるべきかもしれません。
ただし、手術後どれくらいの期間で発症するかについては人それぞれです。
1年くらい経ってからの人もいれば、数ヶ月以内に起こる人もいます。
なので、過去に手術をした人は要注意です。
胸腔鏡下交感神経節遮断術による副作用
胸腔鏡下交感神経節遮断術とは、発汗をコントロールしている交感神経を内視鏡を使って切断することで汗を出す指令を止める手術です。
多汗症の最終手段と言われている手術であり、よほどのことでないかぎりは他の方法で対処することを勧められます。
その理由は、後戻りができないからです。
一度切断してしまった神経は元には戻りませんので、うまくいけば手汗は完全に止まります。
ただし、手術は簡単なものではありません。
執刀医の技量によるところが大きいため、大きな決断が必要になります。
汗は体温調節の役割をもっているため、手汗を止めてしまうと、その代わりに他の部位で汗の量が増加します。
必ずといってよいほどこの現象は起こります。
これを代償発汗と呼びますが、背中、胸、大腿部などに多くその現象が起こってしまいます。
これとは別に、ごく稀にこの手術を受けてから味覚性多汗症を発症する人もいますので、該当しないか思い返してみてください。
手術を受けてから数カ月後~1年くらいあとに発症することが多い。
交感神経遮断の手術によって味覚性多汗症が発症する確率は平均して50%程度です。
糖尿病が原因の味覚性多汗症
糖尿病でも味覚性多汗が伴うことが報告されています。
これは糖尿病の合併症である末梢神経障害による発汗異常の1つです。
治療法の第一選択はボツリヌス毒素
耳下腺手術による神経の損傷が原因で起こった味覚性多汗症の場合、根治は難しい。
基本的には対症療法になります。
つまり、症状を抑えるための治療であって、味覚性多汗症そのものを治すというわけではありません。
その時に第一選択となるのが、ボツリヌス毒素です。
いわゆるボトックス注射。

ボトックス注射では、ボツリヌス菌が作るボツリヌストキシンという毒素を転用しています。
ボツリヌストキシンは汗腺における「汗を出せ」という神経伝達をブロックする作用を持っていて、1回の注射で平均的に約6ヶ月程度の持続効果があります。
効果は非常に高いため、多くの医師が勧める治療法の1つです。
ボツリヌストキシンはFrey症候群にも効果があり、皮膚が赤くなるのを抑えてくれます。
飲み薬を服用する
多汗症のための薬として保険適用があるのは臭化プロバンテイン(プロバンサイン)のみとなっています。
ネットでも購入できるようですが、できれば医療機関・クリニックにて処方してもらうようにしましょう。(その方が安くつきます)

薬を服用すると、汗はかなり緩和されますが、その仕組みは全身性の交感神経の活動を抑制することにあるため、副作用としていくつかの症状が現れることもあります。
味覚性多汗症の場合は、刺激物を食べない限りは起こりにくものですので、あまり薬の服用は実用的ではないかもしれません。
その他、糖尿病が原因の場合は糖尿病の薬を飲むことで効果があったりしますし、抗コリン薬と呼ばれる交感神経を抑える各種薬を服用することでも味覚性多汗症の症状を抑えることができた例があります。
それらについては、病院で診察してもらい相談しましょう。
味覚性多汗症の原因となる精神的不安の除去
耳下腺手術を受けていないのに、食事で大量の汗が出てしまうという人は元々、神経が過敏であるところにメンタル面が強い影響を与えている可能性があります。
汗のかきやすさというのは、多汗症でなくても一定のレベルで個人差がありますよね。
汗かきの人もいれば、あまり汗をかかないという人もいます。
それに、汗腺は環境次第で退化もします。
実際、シベリアなど年中寒いところで暮らす人たちは、熱帯地方に暮らす人たちと比べると汗はかきにくいそうです。
これは、汗腺が使用される頻度の問題で退化しているということ。
汗を元々かきやすい体質の人が、さらに食事で異常に汗をかくようになるのは「食事での汗を見られると恥ずかしい」という精神的な不安と記憶が脳を刺激することによりさらに発汗が促されることもあります。
いわゆる精神性発汗と呼ばれるもので、緊張したときとか、何か不安なことを感じたときなどにかく汗のことです。
「食事=汗をかく」という構図、つまり「予期不安」が頭の中に固定されてしまっているからなのです。
この予期不安を和らげるためには、精神的な不安を取り除くことが重要ですが「開き直りが大事」というのはいささか難しいでしょう。
人は1つの不安を覚えると、なかなか開き直りができなかったりします。
気にするなと言われても気にするのと同じ。
医療機関では不眠や不安などに対処するための薬の処方もしてくれますが、いわゆる抗不安薬・向精神薬・安定剤などとよばれるものです。
もちろん、精神性多汗症にも有効であるとされる安定剤(最も有名なものはデパスやパキシルという薬です)はあるのですが、安定剤は安易に多用するものではありません。
使用コントロールが難しく、少なくなったとはいえ依存性のある薬もまだまだ存在しますので、必ず医師に相談の上使用するようにしましょう。
時折、個人輸入等で薬を手に入れて使用している方もいるようですが、おススメはしません。
薬を使用しない対処法としては、あなたが苦手とする汗をかきやすい食べ物は避けるようにするのも1つですね。